箚記

シャルリーと健二は私か

31pY7BT4+XL シャルリー・エブト事件(2015年1月7日)からイスラム国による日本人人質事件(殺害予告が2015年1月20日にユーチューブに投稿)に至る一連の過程をネットの記事で見ていて言いようのない気持ちがあります。

 新聞とテレビなしの生活を長年しているので、知りたいことはネットから得ています。すでにメディアが政府の広報機関となっており、報道される情報に信を置いていないからです。わたしの日々には新聞とテレビは不要です。

 2001年9月11月の同時テロを呆然としながら食い入るように眺めていたことを覚えています。まだその頃はテレビがありました。
 2011年3月11日の東北大震災は母の家で見ました。被災した仙台在住の兄の家族と三日連絡がとれず、当時まだ生きていた父が飯が喉を通らず、まだ連絡がないのはもう駄目だろうなと言ったことを昨日のことのように覚えています。
 シャルリー・エブト事件とISISによる人質事件にそれ以来の暗い衝撃を感じています。2001年9月の同時テロから一週間でテロとの戦争が始まり、世界は急激に変質し、中東情勢は混迷の度を深めています。自爆テロが報道されない日はないというほどです。
 一連の事件で世界がさらに変質を深めるのは必至です。
 仏の代議士が国会で一堂に会して事件の追悼のためラマルセイエーズを唱和し、日本国では代議士が着物を着て記念写真を撮り愛国を唱えます。ともにグロテスクです。欧米発祥の自由の理念は危機に瀕し病巣をえぐる根本的な処方箋がありません。

 わたしは「シャルリー・エブト」ではありません。

 シャルリー・エブト事件については「月輪のブログ」(2015年1月28日)がいちばん正鵠を射ていました。そこには次のように記されています。

背筋が・・・・

ダブルスタンダード というか「民主主義」「表現の自由」のホントの姿・・・・
核兵器の引き金にさえ、指はかかっている。極めてリアルな感触として。
「表現・報道の自由」「民主主義の危機」といった、建前以前、「おまえの母ちゃんデベソ」との言われっぱなしを許さない、そんな健全に狂った人としての在り方は、有り得えるのではないか。
そんな、相互の「不寛容」が露出しているのではないか。
フランス事情じゃなく、ヨーロッパ、イスラムそして・・・・ なにか嫌な感じです。
何が起こっても不思議ではない、例えば「核のスイッチ」は私が押すんだよ、という滅びと天国とのアマルガム。そんな狂気、理解不能ではありませぬ私は狂っているのでしょうか?
異様な感触で胸騒ぎがしています。

 同感だとブログの主にすぐ返信しました。
 世界が本格的に壊れ始めているとするこの感触は当たっていると思ったからです。

 わたしの言いたいことは次のことです。
 知らないことやわからないことにたいして知っているふりやわかったふりはできないということです。わたしは現地フランスの国内事情についてなにも知りません。イスラム教や過激なジハードの戦士についてもネットで知ったこと以外はなにも知りません。ここを飛び越すどんな言説も嫌いです。自覚的か無自覚であるかは関係ないのです。越境することの欺瞞について自覚的でありたいのです。ここに理念としての当事者性はまったくありません。わたしたちが接する言論はそのようなものです。
 おなじように理念としての表現の自由を行使することと世俗の言葉だけの表現の自由のあいだには目のくらむような距離があります。実務文化人はいつも虚言で糊塗をしのいでいます。当事者性として語らぬかぎり、昔も今もこれからもそのことが変わることはないのです。それはわたしの痛切な体験から自明のことです。

 殺害予告の動画で見た後藤健二さんの表情のことをずっと考えています。眼力があります。厳しく深い眼をしています。遺棄された生をかれは生きています。深い世界をかれは生きているのだと思います。ゴルゴダの丘で磔刑にされたとき若いイエスもおなじ目をしていたはずです。後藤さんもイエスも世界の無言の条理を生きたのです。
 残骸のように遺棄される、過ぎる時代の過ぎぬことは、いつもそういう出来事としてあります。わたしもながくそこを生きました。だれもここに触れません。
 ここを素通りして強烈な普遍主義同士の衝突が語られます。そんなものはフェイクです。普遍主義の激突を語るその人はそのことを眺めている部外者です。そこでは自由を保守する反テロは先験的な善とされます。世界のすべてから遺棄された後藤さんに言葉が届かないかぎり、それは虚妄であり虚言です。いまわたしたちが当面しているとされるテロと反テロの相克は、自由な社会とカリフ制との擬制の戦いです。日々の主戦場はアーレントの言った「凡庸な悪」との闘いにあります。そのことはとてもリアルです。

 わたしは非命の後藤健二さんに届く言葉があると思います。

            2015年1月31日 (土) 10時32分

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